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消去しいく時間
消去して行く時間
時間というものには、ふたとうりの数えかたがあるように思われる。ひとつは、一から始まってこれに、無限に一単位<年でも秒でもいいが>ずつ加えていくやり方で、私達はそのようにして、小刻みに未来を生きている。もう一つは、たとえばロケットの打ち上げのときの秒読みのように、あらかじめ未来へ区切った時点へ向けて、一単位ずつ時間を消していくやり方である。残り時間がゼロになったときそれが起こる。未来が終わるのである。
<石原吉郎>海を流れる河

癌を診つけても、すでに転移あり、外科的にも、放射線治療にも、化学療法にも有効な手立てがない場合、人はどのように生きていくのか。どのように残された時間をおくるのか。
それまで生きた場所で、同じように時間をつみあげることを望む人もいる筈ではある。また、逆算して、優先事項から時間を消費して行き、残り時間を使い切ることを望む人もいるだろう。
臨床医の立場からは、この時間の数え方は輻輳する。いちにち、一日、をなるべく苦痛なく過ごしてもらいたいと思いながら、闘う術がどこかにあるとジタバタとして、わずかな期待から、化学療法を試してみたりもする。それは最後まで治療を投げ出してはいけないと教えられ、最後の時には家族の退室をもとめ、心臓マッサージまでも施すことが儀式のように行われていた頃に臨床に入った者にとっての行動様式でもある。生きる希望を最後まで捨ててはいないと積み上げ続ける時間。
20年ほど前は、癌の告知は、ほとんど避けられていた。今は、よほどの事情がなければ、ほぼ告知されるようになっている。本人に治療の選択がゆだねられている。闘う術がなくなった時、苦痛をともなう延命を望む人はまず無い、このことは自明のこととしてあると思う。しかし<、延命>とはどの時点からを指すのかは、明瞭とはいえない。
時間をつみあげていくことが、今の現実から異なる未来に繋がる希望を有する場合には延命とはいえないだろう。
しかし、病気の進行を止める術を無くし、ほぼゴールが数ヶ月先にみえた時、残された時間と為すべき事を勘案して有意義な時間を消費してもらいたいと家族に協力を求め、一日一日が未来ではなく、過去へ過去へと消えていく時間。それを見守り、秒読みをつづける時間。
それは緩和ケア、終末期ケアとよぶべき分野であるのだが、これは一臨床医の担えるものではもはや無い。看護師をはじめ、介護者、家族、友人の支えが必要となる。なにより、本人の死生観、哲学、生き方が問われている。
人とは、そのひとが生きたようにして死んでいくのだ、とつくづく思う。

積み重ね未来へと希望をいだける年齢をはや過ぎて、未来の消失までの秒読みが始まっている我が残りの時間をどう消費するのか、明瞭なプランは今もできていない。惑いながらよろよろ、日々をやり過ごしているのだが、若かりし頃よりも歴史や哲学に魅かれるのはその惑いからだろうか。


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| コラム | 04:45 PM | comments (x) | trackback (x) |
平成の清張は何処に
松本清張といえば、若い頃、点と線、ゼロの焦点などミステリーを読みとばしたことがあった。最近、昭和史発掘をおもしろく読んでいるが、その膨大な知識量に圧倒されて、清張そのひとに興味を持ち始めた。才能といってしまえば、それまでであるのだけれど、どうして、このような作家が誕生したのか。
 ちょうどそんな時、<松本清張への召集令状>という本がでた。33歳、両親と妻子の7人家族をささえる新聞社の意匠部職人に何故、赤紙がきたのか。当時でも、33歳での召集はまれだったらしい。そのことで、復員後、彼はその何故をさぐっていく。
 
 今次大戦でのおびただしい軍人、軍属戦死者のうち、召集令状を受け取った者たちのなかに、あってはならない選出方法―万人が納得できる合理的手段でないーがひそんでいたこと。
国家権力の名の下におこなわれた召集令状の発行に、出先機関の小役人の恣意的な動機、小さな懲らしめや報復、意趣がえしといった個人的な思惑がひそかに横行して、召集令状の発行が左右された。現場の役人や軍人たちによるこうした不正によって、一方は戦場に送られ、一方は平然と召集逃れをする。そんな、あってはならない腐敗のからくりが存在していたのではないか。
 松本清張は敗戦にいたるまでの2年間の軍隊生活で、こうした国家権力の実態を骨の髄まで思い知ったのだ。すなわち、人間の生命など、案外にこんな一役人の小手先で自由になるものであり、市役所の吏員のほんのちょっとした鉛筆の動かし方で家族6人の運命が狂ったのかも知れないーという恐ろしい現実である。

 この召集令状をめぐるミステリーが<遠い接近>にえがかれた。
そのストリーテイラーとしての才能におどろくが、上に引用した文章のなかみは、今も厳然として、存在していることが腹立たしい。どこかで、おにぎりを食べたい、と書き残して餓死した人がいれば、どこかで不正に何千万ものタクシー代を得ていた生活保護行政の運用、消えた年金の社会保険庁の杜撰な管理。国家権力はあくまで、その末端で運用するひとりひとりの役人がそれを担っていて、そのことを自覚してもらいたいとおもう。
親方日の丸、という無責任な態度、さらには権力をかさにかけ威圧的な態度など、なんとしても許し難い。いや、国家権力を担っている認識があるからこそ、不正をなす官僚がいるのが真相か。

裁判員制度が来年にも始まるらしいが、その選出ははて、どうしてなされるのだろうか。よほどの理由がなければ辞退できないとのことだが、選出は恣意的でないことをどう担保できるのだろうか。
平成の松本清張よ、出でよ、とおもっている。


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| コラム | 09:25 PM | comments (x) | trackback (x) |
胡錦涛がやってきた
ねこ好きの人達はおおよそ、ねこが人の言葉を充分に理解していると思っているらしい。
ポール・ギャリコの<猫語の教科書>は猫がタイプーを使って書いたとされているし、米原マリは次のような例をあげている。猫きらいの母親が<ねこはすかないけれど、うちの猫はねずみをとりますから>と誰かに話していたが、その30分後には母の机の上にネズミの屍骸ひとつ。この時、はっきり猫が言葉を理解しているのがわかった、と。
 我が家には3匹の猫がいる。このうちの最長老はアトラ。12歳になる。アトランタ、シドニー、アテネを経てついに北京で12歳となった。シドニー五輪の頃は3回の出産を経てもなお若く、単語のみならずセンテンスも理解している様子だった。生まれた子猫の貰い先を云々していたら、子猫をかくそうとしたことからも推測できる。それ以来、彼女は子猫を生むと、目が開く頃になるとすぐ、咥えてはどこかに隠そうとするようになってしまった。シドニーの頃はセンテンスのみならず、人の心理まで見透かすようになり、アテネの頃は人の無意識まで影響を及ぼすテクニックを身につけていた。そして今や、人を自由にあやつるかのようで、犯し難い威厳をもって人を睥睨している。
猫の一年は人の7年にあたる、なんてモノの本には書いてあるがほんとかしら。
アトラの12年は実になにかしら中身がこいようだ。
それにしても、北京五輪はどうなるのだろう。
環境汚染、食の不安、人権問題。そのうえ、反日感情。どれをとっても、北京に行きたいとは、思えないのだが、五輪がそもそも、すこし色あせて見える。スポーツを観るのは好きだけど、国の威信を賭けてといわれると退いてしまう。
アトラはその息子と孫にたいしても、実に威厳をもって対してはいるが、決して威圧的ではない。庇うべき時には身の危険をかえりみず、庇うけれど、それ以外はただ見守っている。いまや、智者の風格をそなえている。猫の12年はおおいに猫を利口にするのだけれど、わが身といえば、なんの進歩も智慧もない12年だったように思う。その上、かなしいことに五輪をめぐって考えてみても、ベルリン五輪と同じ類の胡散臭さがただよっていて、人間の智慧の蓄積は感じられない。
<なさけないよ、アトちゃん> <なにをいまさら、そんなもんでしょう、人間なんて>
あまり、ねこに興味のない我がパートナーさえ、<アトちゃんのしっぽは2、3本に分かれてないか>なんて言っている。たぶん、最も彼女に軽蔑のまなざしをうけているのはその人なんだけど。
そんなこんなで、猫たちをながめて、連休はゴロゴロしてすごした。味わい深いのはアトらだけれど、眺めるだけなら、アトラの孫ねこ、トリノ・モコモコ・ド・バーコード。ほんとに、可愛いです。そろそろ、単語はわかり始めてはいますが、文章はまだかな。この子はとにかく、まったく天真爛漫!
お見せしましょう、、どうぞ、みて、観て!



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| コラム | 12:30 AM | comments (x) | trackback (x) |
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